
絵を描くことが好きになった話
普通大学卒のデザイナーのコンプレックス
私は心理学部出身です。心理学の勉強はとてもおもしろく、特に定量的に人が世の中を認識する仕組みを解明する「認知心理学」という分野を専攻したため、学術的にとても充実した大学生活を過ごし、物の見方も変化するほどの大きな学びも得られました。
バイトやその他素敵な出会いの影響などもあり、私がその後選んだ仕事は「デザイナー」でした。
※以前は自分のことを「アプリデザイナー」とか「UXデザイナー」とか言っていたのですが、最近はやることの幅が広がるにつれ、あえて「デザイナー」と抽象的に名乗るほうがしっくりきています。
大学で学んだ「人がなにをどう認識し判断・行動するのか」という根本的な知識、また少し触れた統計学の知識がデザインにも活き、そのことを自身の強みだと感じることも多々あります。大学の専攻そのものについては私にとって他の道はなく、必然だったとすら思えます。
ただ仕事をする中で、やはり一般的には「デザイナー」は「絵がうまい」「美術的な素養がある」という印象を持たれることが多いな……と感じていました。
実は、私はもともと絵を描くのが好きで、中学生ぐらいまではデジタルで絵をよく描いていました。こちらが15歳のときに年賀状用に描いた絵。

今みると別にそこまで悪くないかとは思いつつ。でも当時は、思うように描けない、他の人はもっとうまい。きちんと描かなきゃ。でも別にプロになりたいわけじゃないし、きちんと絵を描くのは時間もかかる……。
そんな気持ちがつのり、いつのまにか絵を描くことのモチベーションがなくなり、すっかり絵を描かなくなっていました。
現場にいると、優秀なデザイナーがみな「絵が描ける」「美術的な素養がある」わけではないことは理解していますが、「デザイナーなのに、絵が描けない」「デザインや視覚的に美しいものについて、学術的に学んだことがない」ということについて、どこか自分のコンプレックスのように感じることも少なからずありました。
とくに「学術的に学んだことがない」ことについて、美大や芸大に行ったわけでない私。世の中ではこれを美大コンプレックスと呼ぶこともあるらしく。美大・芸大を卒業していないけれど、デザイン・イラスト・アニメーション分野で活躍されている方が感じることがあるコンプレックスだそうです(もちろん全員が感じるものではなく、私の周りでも気にしていない方も多いです!)。
なんとなくそういったコンプレックスがある……というだけではなく、デザインレビューなどふとしたときに観察力の差や、観点の差を感じるような実体験もあって、単純に自分も美術について学び視野を広げたい、高次の視点を獲得したい!とずっと思っていました。
美術を学ぶことで、コンプレックスに向き合う
美術を学ぶ手段としてずっと興味を持っていたのが「デッサン」です。
過去に美大卒の方が話題にされていたこともあり(デッサンの効果は人によって言うことが大きく異なりますが……)、詳細を聞いて、やってみたいなー!という気持ちがずっとありました。
自分で少し真似事のようなことをしてみたりもしましたが、結局なにがいいのやら悪いのやら、ひとりではよくわからないですし、当然モチベーションも続きません。
習いにいこうにも、いかんせん私は趣味ややりたいことがやたら多いため、必然的に優先度が下がってしまい……なかなか踏ん切りがつきませんでした。
がしかし!
6月の日曜が奇跡的にスケジュール調整しやすい状態になっており、そのタイミングでちょうど毎週日曜×4日間、気になっていた教室の集中講義が開講される……とのこと!
やっとデッサンの扉を叩くことができました。
デッサンの無料体験へ
私が興味を持ったのは、某ターミナル駅から徒歩すぐ、大人のイラストレーター・漫画家・デザイナー・3DCG関係など、プロまたはプロを目指す方向けのアートスクールの集中講義です(とはいえアマチュアもOK)。
私もデザイナーとしてはプロですので、気後れしつつもスクールのターゲットでは一応ある……ということになります。
まずは4日間の集中講義の申し込みの前にレギュラークラスで無料体験ができるそうで、無料ならいかなきゃ損だわ〜と思いレギュラークラスの体験に行きました。
集中講義も数万円するものなので、ある程度先生や雰囲気を見て決めようと思いました。
カウンセリングがメインで、絵を描いたのは少しでしたが、そのたった2時間が私に与えた感動がとても大きく、私は即決で集中講義の受講を決めました!

まず第一に、とにかく先生が素敵な人でした。
私はおそらく「心から人を尊敬する」ということ自体が少ない、ややひねくれた人間です。
(誤解を招かぬよう補足すると、人のいいところを見つけるのは得意なので部分的な尊敬はほとんどの人にしていますし、たいていの人は好きです。が、人そのものをまるごと尊敬……となると、もちろん話は別なのです)
そんな私から見てもとても尊敬できる、先生たる先生!という感じで。いろんなことが好き、講師業・スクール経営はもちろん、イラストからアニメからコミュニケーションデザインから音楽から執筆から海外旅行から……なんでもやっているような、情熱にあふれる魅力的な方でした。
私の勝手な印象ですが、先生は「クリエイターのサードプレイスを作る」ことに注力されており、仕事などでの行き詰まりをいろんな手法で解決するためのお手伝いに尽力されているようでした。
人生において出会うさまざまな出来事に強い好奇心を持っている方だな……ということが、会話の中ですぐ伝わってきました。そのため、単純にお話ししていて楽しいです。
私がデッサンの目的を「絵の上達」ではなく、「観察力を磨くこと、他の事物に共通する本質的な要素を知ること」に置いていることにもとても共感いただき、カウンセリング後には集中講義の受講をもうほぼ決めていました。
その後、体験として「自分の手を描いてみる」という流れでした。私は平坦にものを観ているようで(それがよい・悪いではなく、それぞれに合った上達の仕方があるということでした)、骨格など自分の興味・知識を広く持つことが絵にも活きてくること、さまざまな物事の特徴や違いを心に留めておくことで絵でも表現ができること。などをわかりやすく教えていただきました。
入会を強要されることもなく「他も見てみたりされると思うので」とお気遣いいただきましたが、私は「もう決めました!」とすぐ申し込みの手続きを進めました。
1日目(初日) 球体、立方体
そんなこんなで、前回の体験から1ヶ月後。ついに楽しみにしていた講義初日です!
講義を受けるのは私も含め5人。みなさん若そうな感じ。
まずは座学で、講義の進め方や道具、用語についての解説がありました。カッターで鉛筆を削るのは人生ではじめてでした。
その後10段階のグラデーションを作り、そのグラデーションをガイドとしながら机上の球体を描きました。

おそるおそる描いていたし、グラデーションなどはそれなりに頭を使いながら描いていました。一番左上が私の描いたものですが、他の人と比べて明らかに薄いのがわかります。もっと思い切り描いていいんだ(描けるんだ)、と気が付きました。
独学ではなくスクールに通うメリットは、他の人の絵のいいところを学習し、取り入れられるところだと強く感じました。(基本的に描いている間も、ほかの人の描いている様子を自由に見てまわってみましょう、というスタイルでした)
その次は、テーブルの上に置かれた立方体を描きました。

台の影を描くという意識が少なく、ここも他の方の絵を見て気がつくことが多かったです。私は右下で、上の面が光っている印象を描きたいと思い、でも真っ白にはしないように……ということで塩梅が難しい!と思いながら試行錯誤していました。
先生には「光を描くのが上手なタイプですね」と言っていただけました。台の影はもうちょっと塗ってもよかったかも、と。
デッサンの講評については、受験の過程でかなり酷評されたり、うまい順に並べられたり……とかなり傷つく経験をされた方も多いと聞きます。
ですがこちらのスクールでは改善すべき点だけではなく、極力いい点も述べてくださり、「みんな違ってみんないい」というような講評スタイルで一貫していました。(改善したほうがいい点については、描いている過程で都度指摘をいただき軌道修正しやすかったことも影響しているように思います)
1日を終えてみると手がまっくろに。こんなに集中して手を汚して絵を描いたのも久しぶりで、とても達成感がありました。
2日目 段ボール・コンクリートブロック、ワインボトル
この日はまず座学で、パースについて学びました。3点透視図法を初めて知り、なるほど~という感じでした。とはいえ実際に絵に活かすのは難しそうだなぁという印象。
ただ、この教室自体が大人向けのアートスクールということもあって、パースの狂いは悪じゃないし、それが演出につながったり、味を出すこともある。というお話もしていただき、印象的でした。
先生は一貫して、絵には正解はない。意図的に歪ませることもあるし、狂っていても個性や味が出るものだから、上手い・下手は気にせず、好きにどんどん描いたらいい。というスタンスでした。
私もそのスタンスにかなり染まって(?)、下手だろうが人に見せる抵抗感がなくなりましたし、いろんな絵の長所を捉える考え方が身につき、より絵を好きになりました。
座学のあとはパースも意識しながら、段ボール・コンクリートブロック好きな方を描く!というお題に取り組みました。

(ここから先生が私たちよりかなり短い時間で描いた作品も混ざります。短時間でこんなに描けるものなのか……と驚きです)
私は右上のコンクリートブロックを描きました。正直かなり微妙な出来だと思います……。
とりあえず塗る!ということを意識した結果、穴の位置も変になってしまったし、平坦になってしまいコントラスト差をあまり出せず。他お二人のコンクリートブロックはとてもはっきりしていて、存在感や重量が感じられます。
先生はコンクリートの少し欠けている感じなど、質感がよく描けている、といいところもピックアップしてくださいましたが……。
振り返ると「引いて見る」ということがあまりできていなかったなと思ったので、次のテーマからはひたすら引いて見る。休憩して、いったん視点をリセットして見てみる。という意識で取り組みました。
この後は座学で円柱の描き方を勉強し、ワインボトル(木炭かワインボトルの2択で、多数決でワインボトルに)を途中まで描いて終わりました。

コンクリートブロックの出来に悔いが残り、なんとなくこの日は少し落ち込んだ気持ちで終わりましたが、最後に残った人で雑談の流れで教室の画材を使って楽しく遊びました。笑
水彩色鉛筆、水彩ペン、パステルなど。私はルドンが好きでパステルに興味があったので、ここで試させてもらったことがきっかけとなりパステルにハマりました(後述します)。
ちなみに先日、講義初日を受けてからもっと鉛筆に慣れよう!と思いリップクリームを描いていたのですが、描いてみて「なんか違うなー」と思っていました。
2日日に円柱の描き方を習ったため、習った描き方を活かして描き直してみたところすっきりし、けっこうな変化を感じられました。
3日目 ワインボトル、クロッキー
3日目ともなると、みんな来てすぐにイーゼルや画用紙の準備を始めたりと手慣れたものです。この日は午前中に前回途中まで描いたワインボトルを描きあげました。

自分の絵は上段真ん中です。ボトルの透明感がうまく出せた気がします。
途中、先生にアドバイスいただいて私自身の映り込みを描き込んだことも効果的に活きました。
(なお、デッサン教室で先生の指導が少なくほとんど放置される……という話をよく聞きますが、このスクールはそんなことはなく丁寧に見てくださいました)
もう少しボトルの向こうの布のたわみを描けるとより透明感を表現できたかも、とアドバイスいただきました。
その後は大量に手のクロッキーを行いました。自分の手で好きなポーズを描いて、デフォルメしたり、鏡で見た自分の手を描いたり。

かっこいい線をさっと描けるようになりたいなーと思いました。その後自分でもクロッキーをやってみましたが、やはり短時間で線を決めると納得いかない出来になってしまい……まだまだささっと素敵な絵を描けるまでは遠いようです。
4日目(最終日) 布とバケツと球体
座学は一通り終えたので、あとはひたすら描くのみ!とのこと。
この日はストライプのクロスの上に置かれたステンレス(たぶん)のバケツと、その横に球体を置いたものを描きました。

私は左上。遠景の映り込みをそれとわかるようにしたいなあと思い(テーブルやクロスの映り込みとの境界線を出しすぎたくなかった)、その点も意識して調整した結果、全体的に色が濃くなっています。
集中講義初日はけっこう頭を使いながら描いており、描くのもかなり遅く、一番最後にやっと描きあげるような具合でした。ですが最終日には先生の「とりあえず手を動かす」という指導が染みついてきて、他の方と比べても早めに全体を描き上げることができました。
そのためどこに足し算・引き算を行うかもじっくり考えることができ、まだまだなところはありますが、はじめの球体から比べるとかなり上達したと(自分では勝手に)思っています。
先生には「映り込みがよく描けている。球体の光っている感じをもう少し出してもよかったが、球体の中に世界が広がっている感じがとてもいい」という講評をいただきました。
デッサン教室を終えて
とりあえず一番の成果は、絵を描くことがまた好きになりました。
当初の目的に対しても、下記のようにそれぞれ得られるものがあり達成できたと思います。
- 目的:観察力を磨きたい
- 描く中で見えていないものについて指摘をいただくことがあり、着眼点が増えた
- 「深く観察する」手段として「自分で描いてみる」という選択肢が増えた
- なにかを観て絵を描くことは、描きながら対象物をよく観察すること、そして不足している知識(物質、形、骨格、筋肉……)を補完し理解を深めることに繋がると実感できた
- 目的:他の事物に共通する本質的な要素を知りたい
- デッサンも形をつくるものなので、「なにをアウトプットしたいのか(もっといえばなにを届けたいのか)」を考え、表現したいポイントを設定することが大切※。ここは普遍的なデザイン、もっといえば音楽やその他いろんなことにも共通していると感じられた
※私が学んだのはあくまで大人向けの視野を広げるデッサンだと思うので、もしかすると美大・芸大受験におけるデッサンとは少し考え方が異なっているかもしれません。
その後、自分でもオイルパステルやパステル色鉛筆を購入し、絵を描くようになりました。ラフに鉛筆でも描くことがあります。学生のときは絶対にデジタル派だった自分がアナログで絵を描いていることに驚きですが、デジタルよりも偶発性に頼る気軽さ、完璧じゃなくても許容されるようなあたたかさが好きで時々描いています。画材選びの時間も楽しい。
写真をもとに描いてみたり、好きな絵画に少しアレンジを入れながら模写したり、絵描き動画を見ながらお手本を参考に描いてみたりしています。





絵をきっかけに接する人や訪れる場所も広がっていて、人生が少し豊かになったように感じています。デッサン教室をきっかけにまた絵を好きになることができて本当によかったな、と思います。
ふらっと立ち寄れる単発の講座もあるようなので、今後も時々お世話になりたいと思います。
※みなさんの作品については確認のうえ、お名前を隠した上で載せています。もしご本人が偶然ご覧になりやはり削除してほしいなどあれば、お気軽にご連絡ください。


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